マイノリティーの拳
- 著:林 壮一
- 出版社:新潮社
- 定価:1470円(税込み)
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書評データ
「あしたのジョー」に登場する村上輝明という人物をご存知でしょうか。村上輝明は、元全日本ライト級チャンピオン、少年時代のホセ・メンドーサと賭けボクシング(闇試合)で闘い、1R持たずにKO負けし引退して10年後、焼き鳥屋の屋台をやっているが、ボクシングを忘れられず、という人物です。私の友人の間では大人気のキャラクターなわけです。
マイノリティーの拳は、そんな感じで、世界タイトルを取るまで上り詰めたにもかかわらずに失敗しスラム街(ゲットー)に舞い戻り、でもボクシングを諦めきれないといった、いまいちな、えーと、ぶっちゃけて言ってしまうと、ダメなチャンピオン達の話です。
第一章は、マイク・タイソンの話。
タイソンに関しては、ダメチャンピオンとかいって十把一絡げにするには偉大過ぎますね。本書を読むと、タイトルを取る直前に、トレーナーのカス・ダマトが亡くなった事がタイソンにとって一番の不幸だったんだな、と再認識します。もっとも、タイソン自身、躁鬱気質で忘れっぽく精神的に脆いところがあるという欠点を克服できていれば、全盛期がもっと長く続いたんでしょうけど。。。
ちなみにタイソンに関しては、本書にも登場するホセ・トーレスが書いた
- 作者: ホセトーレス,山際淳司
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 1990/08
- メディア: 単行本
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第二、三章も同様に、才能はあるもののちょっとした欠点や環境のせいでゲットーを抜け出せないボクサー達が続きます。レナード、ハーンズ、ハグラー、デュランの時代に三度タイトルを取ったにもかかわらずスラム街で暮らすアイラン・バークレー、「ロッキーなんて所詮作り話じゃん」と言い、4人の子どもを一人で育てながらリングに上がり続けるウィザスプーン。
ウィザスプーンは、なんというか、ダメ人間な雰囲気バリバリなんですが、子ども達がリングに上がるウィザスプーンを応援する描写には泣けました、いやほんとに。でもやっぱりダメな父ちゃんでしたけど。
最後の第4章は、ジョージ・フォアマン。フォアマンは全然ダメ人間じゃないです、本書には相応しくありません。なぜこの流れでフォアマンが登場するのかいまいち理解できません。とか書くと、あんたはダメ人間を見て喜ぶひでえ奴だ、とか言われそうなので自己フォローしますが、私は基本的に努力家の人が好きです。ほんとに。
そんなわけで、本書で一番印象に残った、エピローグにあるマービン・ハグラーの言葉を引用します。
諦めずに自らの目標に向かって努力していたら、いつか何かが起こるもんさ。昔、トレーナーに言われたよ。『お前がキューキュー軋む音を立てて車を走らせていたら、きっと誰かがオイルを入れに助けに来てくれる。人生とは、そういうもんだ』って。
本当にそうさ。でも良い事を待つだけで、何もしない者のところに幸せは来ない。ボクシングは私に人生を与えてくれた。ある意味で教師だな。人間はどうあるべきか、精神とは如何なるものか、全てを教わったね。
いい文章ですね。深く頷きました。