進化しすぎた脳
- 著:池谷裕二
- 出版社:講談社
- 定価:1050円
書誌データ / 書評を書く
進化しすぎた脳読了&レビュー。
この本は、脳科学者の著者が、4回に渡って高校生に脳の講義をしたその記録です。一、二日目は、ねずみをラジコンにしてしまう話からはじまり、意識と言葉の関係などなど。三日目は、脳の細部の働きについて突っ込んだミクロで専門的な話。四日目、今までの話を踏まえて、アルツハイマーの話、薬がどのように脳の神経に作用するか解説しています。
判りやすくて興味を引く話から入って、無駄な話が一切なく、流れるように論が展開していき、読んでいて凄く引き込まれました。脳に関する話はもちろん興味深くておもしろかったけど、それ以上に、著者の話の誘導の仕方、専門的で難解な話を順を追って判り易く説明する能力の高さに、読んでいて心底びびりました。
読後、いったいこの人は何者なんだろう??と思ってググって見たところ、著者は、東大の教養学部首席、薬学部首席で卒業した東大の助手だそうな。。。眩暈がするほど賢い人でした・・・本書を読んでいてもひしひしとその能力の高さを感じられます。
学生時代、自分は暗記科目な化学は大嫌いだったんですが、高校生の頃に、この人の講義を聞いていたら人生変わったかもしれないなあ、と思った次第です。この本は、脳に関心のある人だけでなく、教員や、上手いプレゼンの仕方を模索するサラリーマンが読んでも為になると思います。もちろん進路に悩む理系高校生(または大学生)にもお勧めですね。
四日目の最後、著者は、講義を通して脳に対する印象がどのように変わったかを、高校生たちに問いかけています。自分が本書で一番印象に残った話は、人間の進化のプロセス(p311-315)が変わってきたという話ですね。脳に対する印象っていうのとはちと違うけど、、、。
長いので、とびとびにさわりだけ引用してみます。
過去の生物の進化の過程を眺めてみると、環境に適応できなければ子孫を残さない、というのが自然淘汰の原理として厳然として存在していた。でも、現代社会では、本来なら遺伝子を次世代にひきつぐ機会が与えられなかったような人でも子孫を残すことが出来る。
(・・・略・・・)
あ、僕はそういうのを批判しようとしているわけではないよ。カン違いしないでね。保護や介護は論理的な観点から真っ先に取り組むべき最重要課題だ。障害者たちの人権はいま以上にもっと保護されるべきだと僕は思うし。でもそれとは別に、われわれはきちんと自分たちのやっていることの意味を認識しておかなければならない。いま人間のしていることは自然淘汰の原理に反している。いわば<逆進化>だよ。現代の医療技術がなければ排除されてしまっていた遺伝子を人間は保存している。この意味で、人間はもはや進化を止めたと言っていい。
その代わりに人類は何をやっているかというと、自分自身の「体」ではなくて「環境」を進化させているんだ。
(・・・略・・・)
自然淘汰というのはいわばプロセスだよね。進化というプロセス。でも現代では、進化のプロセス自体が進化しはじめた。新しい進化法が生まれようとしている。
おそらくそういったものに実際に向き合って、どうやって人類という生物種をみつめていくのかというのは、きみらの世代がやることだと思う。そういう人類の将来のこともときどき考えてみて欲しい。
僕は高校生じゃないですが、ときどき考えて見るようにしますです、はい。